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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)83号 判決

控訴人 被告人 川本高市

弁護人 早田福蔵

検察官 中村哲夫関与

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

弁護人早田福藏の控訴の趣意は別紙の通りである。

控訴の趣意第一点に付いて。

銃砲火薬類取締法施行規則第二十二条の違反行為に対する同規則第四十五条の罰則規定は論旨のように昭和二十二年法律第七十二号により同二十三年一月一日以後その効力を失つたものと解すべきである。然らば右失効後である同年十二月二十日被告人がダイナマイト等を所持していた行為に対し前示罰則を適用した原判決は法令の適用を誤り判決に影響を及ぼすこと明であり本論旨はその理由がある。よつて他の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、なお訴訟記録に基いて直ちに判決することが出来るものと認められるので第四百条但書に則り自判することとし本件公訴は前記理由により罪とならないこと明白であるから同法第三百三十六条に則り無罪の言渡を為すべきものとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 島村広治 判事 後藤師郎 判事 青木亮忠)

控訴の趣意

第一、法令の適用に誤があり判決に影響を及ぼすこと明かであること。

原審判決は被告の昭和二十三年十一月二十日の爆薬所持の事実に付銃砲火薬類取締法施行規則第二十二条第四十五条を適用処断して居りますが右施行規則は現在は其効力なき規定であります。即ち日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律(二十二年四月十八日法律第七二号)第一条によれば「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定で法律を以て規定すべき事項を規定するものは昭和二十二年十二月三十一日まで法律と同一の効力を有するものとす」とあり前記日時以後即ち昭和二十三年一月一日以後は其効力なきものであります。

右法令の趣旨は命令によつて明治二三年法律第八四号(命令の条項違犯に関する罰則の件)の委任又は或法律の委任に基て罰則規定を制定することは新憲法下に於ては許されぬと言う趣旨の下に基本法律たる右明治二十三年法律第八四号は昭和二十二年法律第七十二号によつて廃止されると共に之に基いて発せられた各命令も一定の期間が経過すれば其効力を失うものとされたものであります。銃砲火薬類取締法施行規則は勅令であるが固より法律にあらざる命令であることは論なく其第二十二条第四十五条は処罰規定であるから旧憲法によつても新憲法によつても本来法律で規定さるべき事項であることは明かであります。然らば同施行規則は前示昭和二十二年法律第七十二号第一条により昭和二十三年一月一日からは其効力なきものであります。

本件犯行は昭和二十二年十二月二十日の犯行でありますから原審判決は既に効力なき法規を失効後の行為に適用した誤りがあります。被告に対する起訴事実に付ては処罰すべき法規なきを以て無罪の判決言渡をなすべきであり若他にこの事実に対し適用すべき法規ありとすれば其法規を適用すべきであるのに之をなさざりしは明かに判決に影響あるものであります。(他の上告論旨は省略する。)

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